「砥ぐ」

学生時代から使っている中砥石を愛用している。キングの#1200だ。

栄養士の学校で入学時に強制購入だった物でかれこれ10年近い相棒だが砥石は予想の数百倍は使える。面直しという、砥石自体を平らに直してメンテナンスをしていれば私の使用する包丁一本しか砥がないでいるのならそれこそ私が山姥になるまで使えるだろう。

 

「砥ぐ」ということは日本の文化だと最近聞いた。

では他の国ではどうしているのだろう?つまり、切れ味の悪い状態になった時は新しいものを買うのだろうか?ふと思ってみて調べてみたらこれまた異なる状況にあった。

「スティックシャープナー」というものを使うんだそうだ。

鈍角になった面を削り落して鋭角に直す、という説明でいつかこのブログを見返した時に私は理解できるのだろうか…?

やすりのように加工された鉄またはセラミックの棒でそれに包丁を擦りつけて削るんだそうだ。

また、それでも事足りない時は専門の回転砥石を使うらしい。現在はグラインダーで研磨することの方が多いのだとか。

ふむふむ、と新しい知識の入ってくる感触に頷く。こちらがいいとかあちらさんがいいとかではなく、砥ぐという行為が案外特殊だったということに素直に感心した。ホームセンターでは砥石の隣に包丁研ぎ機なるものも売られている。初めて使った時は「なんて簡単なんだ!」と感動すらしたもののその構造を知ってからは全く使っていない。なんというか、私は包丁を甘やかしたいのだと思う。

 

事前に30分以上掛けて石に水を含ませてからタオルの上に設置し、背筋を正して包丁を砥石に乗せる。10円玉一枚分の厚みを浮かせて、手首から肩へ掛けての力を抜き、指先に集中する。シュッシュッと小気味よく滑らせていると砥糞で指先が徐々に染まり、それがある種の安心感を私にもたらす。

”よし、ちゃんと砥げている”

さらに水を含ませて塗り広げるようにして続け、角度を合わせてから切っ先から左右の角度を確認する。うん、曲がっていない。…いや、ちょっとこの辺りが甘いかな?

何度か直してから野菜くずで確かめ、よく洗い直す。あぁ面倒だ!そう思われる人も多いかもしれないけれど、前述の通り包丁を甘やかしたい私にとってはむしろ楽しい。

・・・言い過ぎた。毎日やれと言われればちょっと困る。

しかし、日本という国でこうした特殊な文化があるというのにやらずにいるのは勿体ない。まだまだ「砥ぐ」ということに関しては初心者も初心者な私だけれども、いずれ自分の包丁だけは完璧に「甘やかせるように」なりたいと思っている。